マガンの渡る道
北海道中央フライウェイ


● マガンの渡る道
北海道地図を眺めると、苫小牧から石狩湾に向かって平野部が続いているのがわかると思います。さらに、石狩川を遡ると、深川地や妹背牛町まで平野部が続いています。北海道を南北に縦断し、かつて広大な湿地帯が広がっていたこの平野部は、必然的にマガンなどの水鳥たちの渡りルートとして利用されるようになったのでしょう。湿原が田んぼに姿を変えた今も、マガン、コハクチョウ、亜種オオヒシクイといった水鳥が利用するこの渡りルートを、「北海道中央フライウェイ」と呼びます。

春、北海道中央フライウェイを北上したマガンは、サハリンやカムチャツカを経由して、ロシアの繁殖地を目指します。今回のトピックスでは、北海道中央フライウェイにおけるマガンの渡りに注目しました。

● 北海道中央フライウェイにおける春の渡り
● ウトナイ湖と鵡川・厚真の水田

春、マガンは越冬地である宮城県を出発し、秋田県を通って、北海道に渡ってきます。その玄関口となるのが、苫小牧のウトナイ湖です。例年であれば2月の終わりにはマガンが確認されるらしいのですが、今年は3月7日に始めてマガンが飛来したそうです(ウトナイ湖サンクチュアリネイチャーセンター)。これは、秋田県で例年になく積雪が多く、マガンの北上が遅れていたことに原因がありそうです。
この時期、日中にマガンで賑わうのは、実は鵡川町の水田です。というのも、雪解けが早い鵡川町の田んぼは、マガンの格好の採食地になるからです。厚真町の田んぼの雪解けが進むと、厚真町にもマガンが降りるようになります。鵡川町や厚真町の田んぼにいるマガンのほとんどは、ウトナイ湖で「ねぐら」をとりますが、一部のマガンは、どこか違う場所でねぐらをとっているようです。

● 長都沼と周辺水田

マガンは「雪解け前線」を追って道内を北上します。そして、長沼町、栗山町、南幌町の水田の雪解けが進むと、長沼町と千歳市の間にある長都沼(おさつぬま)をねぐらとして利用し始めます。実は、本当の「長都沼」は、今はもう埋め立てられてしまって存在しません。現在長都沼と呼ばれているのは、かつての長都沼の跡地にできた人工的な「幅広水路」のことです。マガンは、かつて水鳥の楽園として栄えた長都沼の面影を、人工的な水路に見いだしたのでしょう。

● 袋地沼と茶志内沼と周辺水田

宮島沼にマガンが集結する前に、砂川市と新十津川町の間にある袋地沼と、奈井江町にある茶志内沼をねぐらとして利用します。これらの沼は宮島沼より少し北にあるのですが、沼の周りの田んぼの雪解けが宮島沼より早いため、一時的に利用します。

● 宮島沼と手形沼・三角沼と周辺水田

4月も半ばに入ると、宮島沼周りの雪解けも進み、マガンが続々と宮島沼に集結してきます。そのピークは4月20日から25日あたりで、宮島沼に入りきらない(!?)マガンが、近くの手形沼や三角沼といった小さな沼にも分散します。
鵡川・厚真・千歳の採食地からウトナイ湖へねぐら入り
写真:川崎慎二さん(ウトナイ湖サンクチュアリNC)

鵡川は道内で最初に利用する貴重な採食地
写真:梅津譲一さん(ネイチャー研究会inむかわ)


手形沼近くの田んぼでねぐらをとる


● 湖や沼、そして田んぼの「価値」を見直そう!!
ご紹介したように、マガンは宮島沼まで来る途中、北海道内のたくさんの湖沼や田んぼを利用します。これらの場所は、短期間しか利用しませんが、マガンにとってそれぞれ意味があり、とても重要な場所です。宮島沼に世界に類を見ないほどマガンが集まり、世界的に重要な湿地として認められているのも、これら多くの湖沼や田んぼがあるからこそなのです。

しかし、これら湖沼や田んぼの環境は、いつまでも保証されているわけではありません。例えば、手形沼は年々乾燥化していますし、長都沼といわれている幅広水路でも、河川整備に伴う水位の低下が問題となっています。また、秋のうちに田んぼを起こしてしまい、マガンの食べものである落ち籾が春にはなくなってしまう地域もあります。さらに、田んぼ自体が少なくなってしまっている地域もあります。田んぼの食べものがなければ、マガンは小麦の芽などを食べ始め、食害を起こして農家からは受け入れがたい存在となってしまい、マガンは徐々に住みかを奪われていくでしょう。

湖沼や田んぼは、マガンだけでなく多くの貴重な生き物の住みかでもあります。また、きれいな水、澄んだ空気、美しい緑を提供してくれます。私たちがこのような田んぼの「価値」を認めることで、湖沼や田んぼが守られ、結果的にマガンがいつまでも安心して北海道に来てくれるようであれば、とてもいいことだと思いませんか?
マガンは「湖沼」と「田んぼ」がセットでなくては生息できません

田んぼはお米だけでなく、「自然」をもつくるのです

注意:今回ご紹介した沼は、小さくて、農地に隣接しているものがほとんどです。観察に行く際は、なるべく沼辺には直接出ないで、農家や水鳥に影響のないようにご注意ください。

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